曹洞宗松雲長光寺 住職 福島伸悦
運・鈍・根
昨年、日本人二人の科学者が、ノーベル賞を受賞しました。受賞後の会見でお二人とも口にした言葉が「運・鈍・根」という恩師からの教えでした。この言葉は、近江商人の教えだということですが、私たちになじみのあるのは「三方良し」の教えです。「売り手よし、買い手よし、世間よし」で単なる利益追求に留まらず、共栄共存のすべてが満足する商売の目指す理想の経営哲学のことです。それに比べ「運・鈍・根」は商人としての心構えであり地道に実践することの大切さを教えた恩師の人生訓だったと思います。
お二人とも順風満帆な研究生活を送られたわけではなかったようです。長い間、周りの研究者の人たちからは評価されず苦労をされたと語っておられました。しかし、恩師からのこの言葉があったからこそ周りの声に左右されず根気よく信じた道を歩まれたのです。人が見ていなくても自分が信じた道をコツコツ積み上げ、愚直に突き詰めた結果がノーベル賞受賞に繋がったのです。
道元禅師の教えに、「而今(にこん)」と「只管(しかん)」という言葉があります。
而今とは、今この瞬間を意味する言葉ですが、過去や未来にとらわれず今を大切に生きることです。人生大変なことに直面することがありますが、ため息をついていても埒があかないのでひとまず目の前のことに集中すること、それこそが而今の意味です。
また、只管とは、ひたすら一つのことに打ち込む姿勢のことです。雑念を捨ててただひたすらに坐ることを只管打坐(しかんたざ)といいますが、身も心も一切の執着を離れた姿そのものが悟りであります。先生方が研究に没頭する姿こそがまさに悟りのそのもので「只管研究」といえるのだと思います。